フロンティア応用原子科学研究センターの概要

 東海村に本拠を置く当センターは、大強度陽子加速器施設(J-PARC)が供給する中性子線などの量子線を利用する物質科学・原子科学・ビーム科学などを展開することにより、茨城大学における理工学研究科の教育と連動し、さらに産業応用や地域イノベーション達成への貢献を視野に入れ、先進的な研究教育拠点を形成することを目的としています。

 2023(令和5)年度から兼務教員の再編成をともなう研究体制の刷新をおこないました。理工学研究科量子線科学専攻の教育を担う東海サテライトキャンパスにおいて、従来のJ-PARCにおける活動に加えて、日本原子力研究開発機構研究用原子炉JRR-3、高エネルギー加速器研究機構放射光実験施設など量子ビームをブロードバンドに活用した原子科学研究を展開しています。

 

 The Center located at Tokai village is aimed at establishing the advance base of the research and education of atomic sciences in Japan by using various quantum beam facilities including neutron beam provided by J-PARC (Japan Proton Accelerator Research Complex), which promote materials science, atomic science, beam science, and so on. These activities are closely connected with Graduate School of Science and Technology of Ibaraki University.

 At the beginning of FY2023, the devisions are reorganized, and the cooperative members are also rearranged. At the Tokai Satellite Campus, we conduct the education activities of Institute of Quantum Beam Sciences, and make progresses of researches using broad-band quantum beam techniques which can be used at the proton accelerator facility J-PARC, the research reactor JRR-3 of JAEA, Photon Factory of KEK, and so on.

研究方針

 大強度中性子源による画期的な中性子散乱・回折技術をはじめ各種量子ビームを用いて物質の構造と機能を解析することにより、新しい素材や物質機能の開発を目指します。

 本センターは東海村にある「いばらき量子ビーム研究センター」内に本拠地をおき、大強度陽子加速器施設(J-PARC)の建設に伴い、ビームライン(BL)の運転・維持・管理ならびに開発研究を茨城県から委託されたことを契機に、これを本学の新たな発展の起爆剤にして、将来これに関わる応用原子科学研究分野の広汎な知の拠点づくりを目指してきました。その後、本学大学院理工学研究科に寮費線科学専攻が設立されるに伴い、J-PARCの中性子産業利用から量子線科学研究教育による多彩なビーム利用へ展開し、2023年度から産業・応用技術部門、新素材・BBQB解析部門、基礎科学部門の3部門から構成され、日立、水戸、阿見のすべてのキャンパスから教員が参画しています。

 産業・応用技術部門は、J-PARC物質・生命科学実験施設の中性子産業利用事業に協力し、イノベーションにつながる物質材料研究を推進します。さらに分野横断型研究領域の開拓を目指し、人文科学や農学系などに量子ビームを応用する技術や研究を推進します。

 新素材・BBQB解析部門は、各種量子ビーム利用を軸に物質の構造を紐解きながら、新物性現象、新機能材料やエネルギー材料・構造材料のブレークスルーを実現する研究を目指しています。並行して、実験およびモデル解析における計算科学研究も推進し、新素材や量子ビーム実験手法の開発を行います。

 基礎科学部門は、量子ビームを用いる物性物理学・化学・生命科学・ミュオン科学を始めとする基礎科学を推進しています。

世界をリードする大強度中性子回折実験装置の開発と生命・物質研究

 J-PARC中性子源は、KEKに設置されていた中性子源の100~200倍程度となる世界最高級の中性子源です。この高強度を生かした茨城県の2台の中性子回折装置(生命物質構造解析装置、材料構造解析装置)の維持運転・高度化研究を進めてきました。これらを用いて、タンパク質の構造解析と機能の関連性の解明の研究を推進しています。また、粉末中性子回折・小角散乱装置を用いて、次世代電池材料・イオン伝導材料の構造に関する研究や水素吸蔵合金・クラスレートハイドレート等の構造・機能に関する研究を進めています。

幅広い応用原子科学分野の先端研究

生体分子変換

 タンパク質は機能する生体分子であり、酵素や遺伝情報を制御する転写因子など多岐にわたって、生命現象の維持において重要な働きをしています。タンパク質の立体構造の決定法には、X線結晶構造解析や中性子結晶構造解析があり、溶液中の立体構造決定法には核磁気共鳴(NMR)法等があります。X線やNMRによる分子構造の解明は生命現象を分子レベルで考察する上で重要であり、中性子による構造解析は、酵素の反応機構の解明に重要な水素原子に関する構造情報を得ることができます。一方、タンパク質が機能する場は、溶液中であるため、溶液中において、時々刻々と移り変わるタンパク質の構造変化を、振動スペクトル、X線吸収分光法、NMR等の分光学的方法や、ストップトフロー法等の速度論的方法によって調べたり、生化学的・分子生物学的手法によってその機能を調べることが不可欠です。分子・原子レベルでの生命現象の解明を中心に生体分子変換の研究を進めています。

 

量子ビーム先端材料研究

 材料における機能の発現やこれらを利用したデバイスの開発、あるいは加工性と強度に優れ高い信頼性をもつ構造材料を創製する上で、材料の結晶構造や微細構造、集合組織を明らかにすることが重要です。構造解析の手段としては、これまでX線が広く用いられてきました。中性子に代表される種々な量子ビームを観測手法として併用することで、これまでには得られなかった多くの構造情報を得ることができます。本研究では量子ビーム利用を主要な実験手段として、機能材料と構造材料について物性物理学的側面から実用材料開発までを視野に入れた構造解析・材料設計を目的とします。デバイス機能制御、高次多極子の関与する物性、機能性複合ナノ粒子の精密合成、次世代電池材料の構造と機能、 軽金属合金における相分解初期過程、超寿命化連続繊維ポリマー複合構造材、鉄鋼材料の組織形成と腐食および高耐久コンクリート材料等の研究開発を進めています。

目標

 フロンティア応用原子科学研究センターは、大強度陽子加速器(J-PARC)の卓越した能力を生かした中性子応用科学と応用原子科学を展開し、物質科学の基礎研究から、その産業応用と地域イノベーションに貢献する研究・教育・連携の拠点形成を目指します。本センターは、この目標の実現に向けて、以下の活動を行います。

 

 1. J-PARCの利活用に係わる開発研究並びに産業利用支援を通じて地域の産業振興に貢献します。

 2. 産業・応用技術部門、新素材・BBQB解析部門、基礎科学部門、ならびにこれらと連携した学内協力教員研究プロジェクトにおいて、応用原子科学の研究を推進し、地域産業等に画期的シーズを提供すると共に、これらの成果を全国や世界に発信し世界レベルの研究拠点となるように努めます。

 3. 研究成果や研究上のノウハウを量子線科学専攻などの大学院教育に反映し、当該分野における高度の人材を育成します。

センターの活動方針

 物質科学と生命科学分野における原子スケールでの物質構造、機能に関する研究および原子科学に関わる基礎的研究を推進します。

 中性子ビーム実験装置を利用した研究を基盤にして、関連分野への研究を迅速に展開し、産学官連携の幅を広げるように努めます。

 量子線科学専攻の演習実習等による中性子ビーム利用高度専門技術者・研究者の育成など、教育・人材育成を担います。

これらの活動を進めるために、

 全学の力を集めて活動を推進し、成果を挙げうる組織とします。そのため、参加教員が動きやすい柔軟な運営体制を整備します。

 研究費の多くは外部資金によらざるを得ないため、外部の大型プロジェクト・競争的資金の獲得を目指します。また、研究成果の公表やシンポジウムの開催など積極的なアウトリーチを行います。