フロンティア応用原子科学研究センターの概要

 東海村に本拠を置く当センターは、大強度陽子加速器施設(J-PARC)が供給する中性子線などの量子線を利用する物質科学・原子科学・ビーム科学などを展開することにより、茨城大学における理工学研究科の教育と連動し、さらに茨城県が推進する産業応用や地域イノベーション達成への貢献を視野に入れ、先進的な研究教育拠点を形成することを目的としています。

 2016(平成28)年度からセンター長および専任教員の新たなメンバーが着任しました。さらに兼務教員の再編成をともなう部門ユニット化による科学研究と量子ビーム技術開発の強化、理工学研究科量子線科学専攻の教育を担うキャンパス化など、さまざまな改革を進めています。

 

 The Center located at Tokai village is aimed at establishing the advance base of the research and education of atomic sciences in Japan by using various quantum beam facilities including neutron beam provided by J-PARC (Japan Proton Accelerator Research Complex), which promote materials science, atomic science, beam science, and so on. These activities are closely connected with Graduate School of Science and Technology of Ibaraki University, with which regional industrial application and technology innovation in Ibaraki prefecture are pursued.

 At the beginning of FY2016, new staff members arrived, and the cooperative members are also reorganized. We reform the system of Frontier Center by establishing the divisions and research units for scientific researches and developments of quantum-beam techniques. These actions are closely correlated with the new education system of Department of Quantum Beam Sciences, Faculty of Scieence and Engineering of Ibaraki University.

研究方針

 大強度中性子源による画期的な中性子散乱・回折技術をはじめ各種量子ビームを用いて物質の構造と機能を解析 することにより、新しい薬品や材料の開発を目指します。

 本センターは、東海村で進行中の大強度陽子加速器施設(J-PARC)の建設に伴い、ビームライン(BL)の 運転・維持・管理ならびに開発研究を茨城県から委託されたことを契機に、これを本学の新たな発展の起爆剤にして、将来これに関わる応用原子科学研究分野の広汎な知の拠点づくりを目指しています。本センターは東海村にある 「いばらき量子ビーム研究センター」内に本拠地をおき、県BL開発研究部門、研究部門、産学官共同研究推進部門の3部門から構成され、日立、水戸、阿見のすべてのキャンパスから教員が参画しています。県BL開発研究部門は、 茨城県からの委託を受け、世界に類のない中性子回折実験装置2台の建設・調整を精力的に進め、平成20年12月から測定を開始しています。

 研究部門は、物質科学、生命科学ならびに応用原子科学等を対象分野とし、各種量子ビーム利用を軸に物質の構造と機能に関わる研究・開発を行います。

世界をリードする大強度中性子回折実験装置の開発と生命・物質研究

 J-PARC中性子源は、KEKに設置されていた中性子源の100~200倍程度となる世界最高級の中性子源です。 この高強度を生かした茨城県の2台の中性子回折装置(生命物質構造解析装置、材料構造解析装置)の維持運転・高度化研究を進めています。 生命物質構造解析装置(iBIX)は、主としてタンパク質の構造解析をねらった高分解能単結晶中性子回折装置で、他の手法では困難な水素・プロトンの存在位置を決定できるのが強みです。新薬創製などに大きな威力を発揮すると期待されています。 材料構造解析装置(iMATERIA)は、粉末中性子回折装置を基本とした装置ですが、小角散乱検出器バンクを含む4つ検出器バンクと広い波長領域を利用した回折実験が可能であり、X線回折で用いられる程度の試料の標準的な測定時間(1MW達成時)が10分程度という高強度型汎用中性子回折装置です。この性能を生かすため、自動試料交換機構の設置やデータ解析ソフトウエアの開発を行っています。また、この装置を用いて、次世代電池材料・イオン伝導材料の構造に関する研究や水素吸蔵合金・クラスレートハイドレート等の構造・機能に関する研究を進めています。

幅広い応用原子科学分野の先端研究

生体分子変換

 タンパク質は機能する生体分子であり、酵素や遺伝情報を制御する転写因子など多岐にわたって、生命現象の維持において重要な働きをしています。タンパク質の立体構造の決定法には、X線結晶構造解析や中性子結晶構造解析があり、溶液中の立体構造決定法には核磁気共鳴(NMR)法等があります。X線やNMRによる分子構造の解明は生命現象を分子レベルで考察する上で重要であり、中性子による構造解析は、酵素の反応機構の解明に重要な水素原子に関する構造情報を得ることができます。一方、タンパク質が機能する場は、溶液中であるため、溶液中において、時々刻々と移り変わるタンパク質の構造変化を、振動スペクトル、X線吸収分光法、NMR等の分光学的方法や、ストップトフロー法等の速度論的方法によって調べたり、生化学的・分子生物学的手法によってその機能を調べることが不可欠です。分子・原子レベルでの生命現象の解明を中心に生体分子変換の研究を進めています。

 

量子ビーム先端材料研究

 材料における機能の発現やこれらを利用したデバイスの開発、あるいは加工性と強度に優れ高い信頼性をもつ構造材料を創製する上で、材料の結晶構造や微細構造、集合組織を明らかにすることが重要です。構造解析の手段としては、これまでX線が広く用いられてきました。中性子に代表される種々な量子ビームを観測手法として併用することで、これまでには得られなかった多くの構造情報を得ることができます。本研究では量子ビーム利用を主要な実験手段として、機能材料と構造材料について物性物理学的側面から実用材料開発までを視野に入れた構造解析・材料設計を目的とします。デバイス機能制御、高次多極子の関与する物性、機能性複合ナノ粒子の精密合成、次世代電池材料の構造と機能、 軽金属合金における相分解初期過程、超寿命化連続繊維ポリマー複合構造材、鉄鋼材料の組織形成と腐食および高耐久コンクリート材料等の研究開発を進めています。

目標

 フロンティア応用原子科学研究センターは、大強度陽子加速器(J-PARC)の卓越した能力を生かした中性子応用科学と応用原子科学の展開、さらにその産業応用と地域イノベーションに対応するものとして、茨城県との緊密な連携・協働を図りつつ、この分野における研究・教育・連携の拠点形成を目指します。本センターは、この目標の実現に向けて、以下の活動を行います。

 

 1. 茨城県と協力して県BL実験装置の本格稼働に取り組み、J-PARCの利活用に係わる開発研究並びに産業利用支援を通じて地域の産業振興に貢献します。

 2. 研究部門、県BL開発研究部門、ならびにこれらと連携した学内協力教員研究プロジェクトにおいて、応用原子科学の研究を推進し、地域産業等に画期的シーズを提供すると共に、これらの成果を全国や世界に発信し世界レベルの研究拠点となるように努めます。

 3. 研究成果や研究上のノウハウを応用粒子線科学専攻などの大学院教育に反映し、当該分野における高度の人材を育成します。

センターの活動方針

 物質科学と生命科学分野における原子スケールでの物質構造、機能に関する研究および原子科学に関わる基礎的研究を推進します。

 中性子ビーム実験装置を利用した研究を基盤にして、関連分野への研究を迅速に展開し、産学官連携の幅を広げるように努めます。

 茨城県との県BL実験装置の活用に係わる協定に基づき、実験装置の本格稼働への支援および産業利用に資する研究を推進します。

 応用粒子線科学専攻の演習実習等による中性子ビーム利用高度専門技術者・研究者の育成など、教育・人材育成を担います。

これらの活動を進めるために、

 全学の力を集めて活動を推進し、成果を挙げうる組織とします。そのため、参加教員が動きやすい柔軟な運営体制を整備します。同時に、アドバイザリーボードを設置し的確な支援・助言が得られるようにします。

 研究費の多くは外部資金によらざるを得ないため、外部の大型プロジェクト・競争的資金の獲得を目指します。また、研究成果の公表やシンポジウムの開催など積極的なアウトリーチを行います。