研究部門

生体系活性水素研究ユニット

本ユニットは生体分子における活性水素の構造と機能についての研究を行う。特に、生体分子における弱い化学的相互作用と物性の関係を系統的に世界で初めて検討してきたモデルタンパク質を基軸に、X線結晶構造解析、中性子結晶構造解析によって活性水素の静的構造情報得て、X線吸収分光、共鳴ラマンスペクトル等の分光学的アプローチから動的構造情報を得て、パルスラジオリシス、ストップトフローによって、電子移動反応の速度論的解析を行う。また、モデル金属錯体を合成し、その精緻な構造と物性情報を得て、活性水素の構造と機能の相関を精密に理解する。さらに、中性子結晶構造解析から得られる活性水素原子の量子化学的描像を理論計算により解明し、得られた結果を分光学的情報、速度論的知見と照らし合わせ、生体分子における活性水素の構造と機能についての理解を深める。

 

研究トピックス

光合成色素を作り出す酵素の水素添加反応機構の研究

 

 光をエネルギー源や環境情報として利用している生物には、その光で反応を起こす「スイッチ」ともいうべき色素を含んだ光受容タンパク質が備わっている。光合成生物シアノバクテリアの色素の一つ(フイコシアノビリン)を合成する酵素は、色素の合成に際して水素と電子を巧妙に利用する。その特殊な水素添加反応機構を理解するために量子ビームや量子化学計算などを駆使する。この研究で得られる知見を、環境保護や光エネルギー利用などエコロジー分野で応用する。

電子伝達タンパク質の構造・機能解明と応用

 

 ベンゼンやビフェニルなどの難分解性の芳香族化合物の分解に関与する電子伝達系タンパク質の精密な立体構造や電子伝達制御機構を、X線結晶構造解析や反応速度解析(ストップトフロー)などを駆使して原子レベルで解明する。得られた知見に基づいて、PCBやダイオキシンなどの有害な環境汚染物質を効率的に分解できる新規微生物を創成し、生物的環境浄化(バイオレメディエーション)に応用する。さらに立体特異的な精密化学合成への応用も目指す。

ビフェニル分解酵素系BphA4/A3 複合体の立体構造

ビフェニル分解酵素系BphA4/A3 複合体の立体構造

ブルー銅タンパク質の構造生物化学

 

 微生物、植物、動物に広く存在し鮮やかなブルーを呈するブルー銅タンパク質は、古くから多くの科学者を魅了してきた。様々な生物において、ブルー銅タンパク質が電子の運搬・窒素循環・鉄の代謝などに重要な役割を果たしている。先端的手法を駆使して、この多機能で魅力的なタンパク質の機能発現のカギである「生体分子における弱い化学的相互作用」を明らかにし、医薬品、機能性食品、バイオ材料などの開発において有用な新規タンパク質のデザインに応用する。

様々なタンパク質の結晶

様々なタンパク質の結晶

タンパク質のアルギニンに細工をする酵素PADの構造・機能相関の研究

 

 Peptidylargininedeiminase(PAD)は、左図のような反応を触媒することで、タンパク質間の相互作用を調節していると考えられ、神経細胞をシールドのように包む細胞の層状構造を作ったり、皮膚や毛の角質形成に働いている。また、PADの働きの異常が原因と思われる病気(多発性硬化症、慢性関節リウマチ、緑内障など)も続々と見つかってきた。我々の身体の中にあるPAD分子やそれと関係するタンパク質の立体構造を明らかにし、その構造情報に基づいて新しい医薬品を作るなど、高齢化社会などにおいでの社会的諸問題解決に貢献する。

PDAが触媒する反応

PADが触媒する反応

 

花成に関与する脂肪酸KODAの化学合成とその機能解明を目指して

 

 植物の成長はいくつかの植物ホルモンによってコントロールされている。古くから花成(栄養成長→生殖成長への成長相の転換)には花成ホルモンの存在が示唆されており、最近、天然植物脂肪酸KODA(Keto-OctaDecadienoicAcid)が花成に係わっていることが示された。KODA関連物質を化学合成し、量子ビームを使って花成におけるKODAの機能を解明する。そこで得られた知見を花成のコントロールへと展開させることで、農作物生産や園芸分野での利用へと発展させたい。

 

ユニットメンバー

高妻 孝光(大学院理工学研究科[兼務教員],ユニットリーダー)
森 聖治(理学部[兼務教員])
島崎 優一(理学部[兼務教員])
庄村 康人(大学院理工学研究科[兼務教員]
山田 太郎(Fセンター[専任教員])
山口 峻英(理学部[兼務教員])
飯沼 裕美(大学院理工学研究科[兼務教員]