茨城県生命物質構造解析装置(iBIX)

iBIXユニット[生体領域]

 生命物質の深い理解のために要求される水素原子の位置情報を高感度で検出し、医薬品や生体材料などの製造に役立て、安心で豊かな生活を享受できる基盤技術を提供する。

茨城県BL開発研究部門[生体領域]が提供する価値

 研究目的は、生体高分子中の水素を高感度で観測できる中性子回折装置iBIXを用いて得られる水素位置情報を医薬品や生体材料などの開発に役立てることと、この装置の世界レベルの性能を維持するための高度化を推進することです。

 3人の専任教員、2人の兼任教員、3人の専任研究員など専門家の緊密な協力体制のもと、新薬や燃料電池材料等の開発に向けた中性子結晶構造解析、産業界から提案されるiBIXでの測定課題の補助、解析支援など、世界最先端の研究シーズを提供します。

 事前の相談はもちろん、中性子実験を準備する上でボトルネックとなる結晶育成、また、多数の水素位置が判明した後、その整理や重要な意味付けを行うためのデータベース解析など、中性子実験の入口と出口についてもしっかりフォローして、中性子に慣れない方でも気軽に利用できる体制作りにも気を配っています。 

 

田中 伊知朗(iBIXユニットメンバー)

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中性子で水素(プロトン)を見る:水素原子は「タンパク質を知る」最大の手がかり

 生物はCMでよく聞かれる『酵素パワー』のおかげで活きている。このパワーの源は生体内で起こるタンパク質の化学反応である。この化学反応には、タンパク質の水素原子とその周囲を取り巻く水分子が関係している。水無しで生物は生きていけないのはこのためである。タンパク質や水分子を作り上げている水素原子の振る舞いが、生命の仕組みの本質である。

水素原子と『相性が良い』

 中性子タンパク質の原子レベルでの立体構造決定には、X線が大きな力を発揮する。タンパク質を構成する主な元素は炭素、酸素、窒素そして水素である。このうちの炭素、酸素、窒素は線でよく見えるが、水素を見るのは得意ではない。これに対し、中性子は水素原子をよく見ることができる。すでに、中性子解析で、インスリンなどのタンパク質の全水素原子と水分子について多くの知見が得られている。その結果、これまでの生体物質の水素原子や水分子の結合の仕方などは、線解析の結果を基に類推していたが、中性子を使ったタンパク質の水素原子などの分析結果より、この類推に限界があることが判ってきた。

 

 

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中性子で観測された水素原子

世界最高性能の中性子生命物質構造解析装置[iBIX]

 これらの研究を可能にするのが、J-PARCに建設したiBIXである。 J-PARC加速器の出力が最高性能(1MW)になると、従来の生体高分子中性子回折装置と較べて、約100倍以上の効率での測定が可能となる。この装置 の運転とさらなる高度化研究を継続し、常に世界最高性能を維持することも、本部門の大きなミッションである。

 

 

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茨城県生命物質構造解析装置「lBIX」

 

 

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iBIXの中性子検出器群

新薬開発に向けて

 中性子利用による新薬の開発にも注目が集まっている。中性子を用いることで、水素原子を含んだ水分子とタンパク 質が結合した構造を測定できるため、タンパク質周囲の水分子を追い出して薬がタンパク質に結合する詳細な構造が明らかになる。これにより、薬剤候補化合物 をより正確に予測することが可能となる。また、遺伝子制御系、シグナル伝達系、エネルギー変換、物質代謝系などの病因タンパク質の仕組みはすべてタンパク 質と水分子間の水素イオン(プロトン)の移動が主要な鍵を握っており、iBIXはこの解明に必須のツールとなる。

エネルギー・環境・食品分野への応用

 バイオ燃料電池用電極の有力な候補であるマルチ銅オキシダーゼ、廃棄物の中でもその処理に大 きな問題を抱えた合成高分子の分解に寄与するナイロン分解酵素および耐低温性農産物に寄与する抗凍結タンパク質などの機能は、タンパク質や水分子のプロト ンの移動が関与しており、この挙動の解析にもiBIXが大きく寄与する。

ユニットメンバー

日下 勝弘(教授[専任教員],iBIX装置責任者)結晶学・中性子構造解析
山田 太郎(准教授[専任教員])構造生物学
矢野 直峰(助教[専任教員])構造生物学
田中 伊知朗(教授[兼務教員]) 中性子構造生物学
細谷 孝明(講師[兼務教員]) 結晶化学・中性子散乱・デバイス制御ソフトウェア開発
片桐 政樹(コーディネーター) 検出器開発
二宮 聖治(技術支援職員)
廣木 淳一(技術支援職員)